渡辺公三×昼間賢トークセッション
《渡辺公三『アフリカのからだ』『西欧の眼』(言叢社)刊行記念》
タイトル: 今、人類はどこにいるのか
あるいは多様体を映す場所へ■ 出演
昼間賢(フランス文学・音楽評論)
■ 日時: 2009年12月4日(金)18:30〜20:00
■ 会場 : ジュンク堂書店新宿店
■ 講師紹介
渡辺公三(わたなべ・こうぞう)
1949年東京生まれ。東京大学社会学研究科文化人類学専攻博士課程修了。国立音楽大学講師を経て、立命館大学大学院先端総合学術研究科教授。
著書:『身体・歴史・人類学1
アフリカのからだ』『身体・歴史・人類学2西欧の眼』(2009年、言叢社)、『闘うレヴィ=ストロース』(2009年、平凡社新書)、『司法的同一性の誕生市民社会における個体識別と登録』(2003年、言叢社)、『レヴィ=ストロース構造』(1996年、2003年再刊、講談社)他。
訳書:『食卓作法の起源』(『神話論理3』レヴィ=ストロース著、2007年、共訳、みすず書房)、『個人主義論考』(デュモン著、1993年、共訳、言叢社)、『国家に抗する社会(クラストル著、1987年、水声社)他。
昼間 賢(ひるま・けん)
1971年東京都生れ。パリ第四大学博士課程留学、早稲田大学大学院博士課程単位取得退学。現在、早稲田大学非常勤講師、立教大学兼任講師。専門はフランス両大戦間の文学と文化、ポピュラー音楽論。
著書に『ローカルミュージック 音楽の現地へ』(インスクリプト)、訳書に『エリック・サティの郊外』(早美出版社)などがある。
《感想:アイデンティティー再考》
人生いろいろとは言うけれど、東京・代々木上原に生まれ育った少年が、なぜアフリカの秘境の王国に赴いて研究調査を行うに至ったのか? それはちょっと聞いてみたい。渡辺先生の経歴がA4用紙2枚にびっしり書かれた資料が配られ(このような資料が配られたトークを今まで経験したことはないが)順を追って語ることで文化人類学の孕んでいる問題と今後の展望が朧げながらも見えてくるというトリッキーかつ貴重な話だった。
会場からの質問でも指摘されたが、文化人類学においてもっとも困難なのは「他者をいかに記述するか」という問題である。渡辺先生は語る。「クバ王国の人を目の前にして、私はいかに語るか。『世界がこんなにも変わってしまったのにクバの人々はいまだに○○だ』と記述するか。あるいは『そんなクバの人々もこんなにも変わってしまった』と記述するか、ここにはすでに書き手の視点が介入している(他者への暴力がふるわれている)」と。
さらに言えば、質問した方が引き合いに出していた川田順造先生の提唱している三角測量「西洋の眼だけでなく、アフリカの眼だけでもなく、日本の眼だけでもない、複眼的思考」は有効な手法だが、それでもやはりフレームが設定されている(他者への暴力が回避された訳ではない)ので、これで問題が解決されるという訳ではない。
ただ、こういった問題に対する答えを早急に求めるべきではないし、やはり熟考を要するというものだ。例えばトークでも触れられたマルセル・モースを読み直すことも必要だろうし、その前後を見直すことも必要だろう。デュルケーム(社会学)を受け継いでマルセル・モース(社会学と人類学)、レヴィ=ストロース(構造人類学)、そして渡辺公三へと繋がるのだけど、この間に連綿と受け継がれているものがある。個々に解消されない集団(社会)の見えざる力、構造、形式、そして他者。すべて通じている。
そして渡辺公三を言及するのであれば、とりわけ重要なのは《アイデンティティー》だろう。実は今回のトークは渡辺先生の近著『アフリカのからだ』『西欧の眼』の刊行を記念して行われた。私もこの2冊に予めざっと目を通した。そして渡辺先生の仕事を一通り知ることができたのだけど、これといった決定的な切り口を掴みきれなかった。そこでとある出版社の編集者に話してみたら「渡辺先生の仕事で特筆すべきは何と言っても『司法的同一性の誕生』だよ。あれは他にやった人はいないし、おそらく渡辺先生しかできない仕事だと思うよ」と返ってきた。
それで早速、今日買ってきて読み始めたのだけど、なるほど。《アイデンティティー》の問題は《他者》の問題と表裏一体だ。
社会・人類・構造・形式・他者・アイデンティティー
キータームはそろった。これはじっくり取り組んでみようじゃないか。
《SPECIAL NEWS》
渡辺公三×昼間賢 選書ブックフェア開催!!!
場所:ジュンク堂書店新宿店7階東側エレベーター前フェア棚
会期:2009年12月5日〜30日
渡辺公三先生 選書リスト
『レヴィ=ストロース
構造』講談社、現代思想の冒険者たちSelect、2003年
『司法的同一性の誕生』言叢社、2003年
『国家に抗する社会』クラストル著、水声社、1987年
『やきもち焼きの土器つくり』レヴィ=ストロース著、みすず書房、1990年
『個人主義論考
近代イデオロギーについての人類学的展望』
(共訳)デュモン著、言叢社、1993年
『舞台の上の権力
政治のドラマトゥルギー』
(再刊)ちくま学術文庫、2000年
『ホモ・ヒエラルキカス
カースト体系とその意味』
(共訳)デュモン著、みすず書房、2001年
『レヴィ=ストロース講義―現代世界と人類学』
(共訳・再刊)平凡社ライブラリー、2005年
『生のものと火を通したもの』
(早水洋太郎訳)レヴィ=ストロース著、みすず書房、2006年
『蜜から灰へ』(早水洋太郎訳)レヴィ=ストロース著、みすず書房、2007年
『食卓作法の起源』(共訳)レヴィ=ストロース著、みすず書房、2007年
『裸の人1』(木村秀雄他訳)レヴィ=ストロース著、みすず書房、2008年
『悲しき熱帯1.2』(川田順造訳)レヴィ=ストロース著、中公クラシックス
『胎児の世界』三木成夫著、中公新書
『ジェルミナール』ゾラ著、中公文庫
『南回帰線』ミラー著、新潮文庫
『詐欺師フェリックス・クルルの告白』マン著、中公「世界の文学」
『新生』島崎藤村著、
『アフリカン・デザイン』渡辺公三・福田明男著、里文出版、2000年
『ヌアー族の宗教』エヴァンズ=プリチャード著、平凡社ライブラリー
『バリ島人の性格』ベイトソン・ミード著、国文社
昼間賢先生 選書リスト
昼間賢『ローカル・ミュージック 音楽の現地へ』(インスクリプト)
オルネラ・ヴォルタ『エリック・サティの郊外』昼間訳(早美出版社)
エマニュエル・ボーヴ『あるかなしかの町』昼間訳(白水社)
『文化解体の想像力』(人文書院)
ジェイムズ・クリフォード『ルーツ 20世紀後期の旅と翻訳』(月曜社)
カレン・カプラン『移動の時代 旅からディアスポラへ』(未来社)
ミシェル・ド・セルトー『日常的実践のポイエティーク』(国文社)
マルク・オジェ『同時代世界の人類学』(藤原書店)
ポール・ヴィリリオ『パニック都市 メトリポリティクスとテロリズム』(平凡社)
デヴィッド・グレーバー『資本主義後の世界のために』(以文社)
ヴェルシャヴ『フランサフリック アフリカを食いものにするフランス』(緑風出版)
『ヨーロッパの基層文化』(岩波書店)
マリー・ンディアイ『みんな友だち』(インスクリプト)
アフリカと(ポピュラー)音楽 関連書誌
ジョン・ブラッキング『人間の音楽性』岩波現代選書、1978年
大林稔『愛しのアフリカン・ポップス リンガラ音楽のすべて』ミュージック・マガジン、1986年
川田順造『サバンナの音の世界』白水カセットブック、1988年
クワベナ・ンケティア『アフリカ音楽』晶文社、1989年
成沢玲子『グリオの音楽と文化 西アフリカの歴史をになう楽人たちの世界』勁草書房、1997年
鈴木裕之『ストリートの歌 現代アフリカの若者文化』世界思想社、2000年
塚田健一『アフリカの音の世界 音楽学者のおもしろフィールドワーク』新書館、2000年
奥村恵子『ビバ ラ ムジカ』マガジンファイブ、2006年
北中正和『世界は音楽でできている[中南米・北米・アフリカ編]』音楽出版社、2007年
『アフリカン・ポップスの誘惑』多摩アフリカセンター、2007年
『世界中のアフリカへ行こう 〈旅する文化〉のガイドブック』岩波書店、2009年
萩原和也『ポップ・アフリカ700 アフリカンミュージックディスクガイド』アルテスパブリッシング、2009年
※ photo by montrez moi les photos
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