古谷利裕×福永信 トーク
百年「と」創造
タイトル: 作家の、読者の創造。「作品」の可能性へ。
■ 出演
古谷利裕(画家)
福永信(小説家)
■ 日時: 2010年3月13日(土)20:00〜22:00
■ 会場 : 吉祥寺《百年》
感想文:《癖》
いい会でした。古谷さん、福永さん、百年のスタッフの皆さんありがとうございました。いやぁ〜すごい。店主の樽本さんは僕よりも若い方なのですが、本当にすばらしいお店です。みなさまもぜひ!! → 吉祥寺《百年》
さて感想です。小説家というのは、いや評論家もそうですけど、どうも外見を見ただけでは、1冊の本が、300〜400頁という膨大な文章がいったいどこから生まれてくるのか? イメージできないんですね。
これが例えば野球だったら分かるんですよ。スイング1つ見ればすぐ分かる。僕が今まで見たなかでもっとも印象深いのは濱中治選手のスイングです。
これはもう本当に一目惚れです。「あぁ、すごいわぁ。プロやわぁ。六大学では絶対見られへんわぁ」って一振り見ただけで思いました。
それで文士はどうかと言えば、書いているところを見られないので分からない。喫茶店やマクドで書いてるみたいなのだけど、見たことないから、外面をいくら見ても分からないんですよ!!
今日だったら福永さんは、ちょこちょこと動いていて散歩にも行っちゃったりして、古谷さんはぼーっとしていて、トークが始まるまではいくら観察しても分からない。これは他の作家にも言えることで、前田司郎さんをいくら観察しても分からないし、柴崎友香さんを見ても分からない。こんな小さな女の子のどこからあれだけの文章がスルスルと出てくるのか? イメージとしてはトイレットペーパーをぐいんぐいん回して、トイレが紙で瞬く間に埋め尽くされるという感じなのだけど、う〜ん、やっぱり外面では分からないんですよ。
それが今日のトークを聞いていると、評論と小説、それぞれの創作のプロセスがわかる感じ(濱中選手のスイングを見ている感じ)がして、文章を読むのと同じぐらい充実していました。ただ、なぜ「感じ」というかと言えば、それはハウツーものではないということで、この「感じ」は古谷さん、福永さんにしか当てはまらないからです。「何でこうなるの?」という問いに対して、ちゃんと答えてくれたのだけど、古谷さんも福永さんも独特で、「こうだから」ではなくて「こうなってしまう」という感じで、一言で言えば《癖》ということなんだろうなって思いました。《癖》と言ってしまうと悪い感じがして、確かに放っておくと悪化したり、マンネリ化してしまう厄介なものだけど、この《癖》こそが「作品としての文章を成立させている」わけで、俗に言う《文体》ということなのかもしれない。いやちょっと違うかな? .... う〜ん、とりあえず、やっぱり《癖》としておきます。
今回出版された『人はある日とつぜん小説家になる』は古谷さんの《癖》を多分に感じることができるし、他方、福永さんについては今日、主に話されていた小説は6月下旬に本になるということなので、それまでのお楽しみなのだけど、僕が個人的に福永さんの《癖》を最も感じる作品は「人情の帯」という小説で『コップとコッペパンとペン』に所収されているので、ぜひ読んでみてください。そして感じてください。
「なんでこんなふうになっちゃうのかな〜.....」
《書評》日経新聞3月14日(朝刊)
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福永信さんの新刊は6月下旬発売予定です!!
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